大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所半田支部 昭和37年(ワ)48号 判決

判   決

半田市亀崎町四丁目二一八番地

原告

合資会社太田屋商店

右代表者、無限責任社員

太田芳郎

右訴訟代理人弁護士

石谷茂

被告

右代表者

法務大臣

右指定代理人

上野国夫

沢真澄

鷲山麓

井戸田京一

右当事者間の昭和三七年(ワ)第四八号損害賠償請求事件について当裁判所は左のとおり判決する。

主文

被告は原告に対し金二一五、〇七五円及び之に対する昭和三七年一一月三〇日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払わなければならない。

原告其の余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は、

被告は原告に対し金二一五、〇七五円及び之に対する本件訴状送達の翌日(昭和三七年一一月三〇日)より支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え、

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は訴外竹内門治に対して有する金三八七、〇七九円の売掛代金等の債権の執行保全のため同訴外人が訴外半田市に対して有する新居公民館新築工事請負代金債権金三、三六〇、〇〇〇円の内金三八七、〇七九円に対し名古屋地方裁判所半田支部に債権仮差押命令(昭和三七年(ヨ)第八号事件)の申請を為した結果同庁において昭和三七年三月一五日原告申請の通り右債権仮差押決定(以下本件仮差押という)がなされ、該決定は翌一六日第三債務者半田市に送達せられた。

二、而して原告は右仮差押の本案訴訟として訴外竹内門治に対し前同庁昭和三七年(ワ)第一五号売掛代金等請求事件を提起し、同事件につき同年六月一一日原告勝訴の判決言渡がなされ、該判決は同月二七日確定した。

そこで、原告は右確定判決を債務名義として本件仮差押債権に対し、前同庁に債権差押命令の申請(昭和三七年(ル)第六号)を為し、同年八月二九日債権差押命令が発せられ該命令は第三債務者たる半田市に送達せられたが之より先、被告(愛知労働基準局以下省略)は訴外竹内門治において労働者災害補償保険料(以下労災保険料という)を滞納したという理由で同年四月九日付で本件仮差押債権に対し滞納処分による差押をなし、更に同月二〇日本件仮差押に係る債権を含め当時弁済期が到来したる前記請負代金債権の内金四五四、七〇〇円全額を取立てをなした結果、原告の右債権差押の執行は不能となつた。

三、ところで当時被告が訴外竹内門治に対して有したる労災保険料債権は総額金六一、七〇〇円に過ぎず従つて被告は右滞納金と滞納処分手続費用について差押をなし之が優先弁済を受けることによつてその債権全額の満足を得ることが出来るわけであるから右金額を超えて差押をなすことはできないのに、被告は前記のように弁済期の到来した請負代金債権全額金四五四、七〇〇円の差押をなしたことは違法である。

四、又、被告は当時右滞納処分をなした債権について既に原告より前記債権差押の執行がなされていることを知りながら執行裁判所に対し国税徴収法第五五条に基く滞納処分の通知をしなかつたので、被告の右滞納処分は無効である。

五、被告は同年四月二〇日滞納処分をした債権全額金四五四、七〇〇円を第三債務者半田市から取立てた上、

(イ)同年五月七日内金六一、七〇〇円を愛知労働基準局の労災保険料債権の徴収に充当し、

(ロ)同日内金二九八、二八八円を訴外竹内忠治外一六名に支払い

(ハ)更に同月九日残金九四、七一二円を訴外知多地方事務所に交付したが、

被告のなした右(ロ)(ハ)の支払は原告の仮差押があるに不拘之を無視してなされた点において違法である。

仮りに被告において訴外竹内忠治外一六名より訴外竹内門治に対する債権が労務賃金債権であつて、先取特権を有する債権であると認定して優先配当をしたものとしても訴外竹内門治に対する債権者たる原告としては右竹内忠治外一六名の労務賃金債権についてその内容に疑義があるのでその優先配当に異議がある。然るに被告は原告に対し滞納処分の通知もせず異議申立の機会を与えなかつた点においてその支払いは違法である。

六、訴外竹内門治の半田市に対する本件請負代金債権については原告の外に昭和三七年四月二日訴外合資会社大嶽電気商会から一九八、五〇〇円の債権の執行保全の為めに仮差押が執行されているから、原告の本件仮差押に係る金三八七、〇七九円より被告の労災保険料金六一、七〇〇円を控除した残額金三二五、三七九円を原告の債権額と訴外合資会社大嶽電気商会の債権額とに按分計算すれば債権差押の執行により原告が第三債務者より現実に支払を受け得べき金額は原告の右債権額に両債権額の按分比〇、六六一を乗じて得たる積即ち金二一五、〇七五円である。

即ち原告は被告の違法なる差押により訴外竹内門治に対する売掛代金等の債権の内金二一五、〇七五円の回収が不能となつたものであり之と同額の損害を蒙つたこととなるのである。

七、原告が蒙つた右金二一五、〇七五円の損害は国家機関である愛知労働基準局の職員たる国家公務員が国税徴収法の解釈並に運用を誤つた重大なる職務執行上の過失に基因するものであるから、原告は国家賠償法により被告たる国に対し之が賠償を請求し、併せて、本件訴状送達の翌日である昭和三七年一一月三〇日より支払済みに至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

と陳述し、被告の抗弁を否認し、

立証(省略)

被告指定代理人は原告の請求棄却の判決を求め、答弁として、

一、請求原因(一)の事実は認める。

二、同(二)の事実中、原告主張の本件仮差押債権につき訴外竹内門治に対する労災保険料徴収のため滞納処分による差押がなされたこと、並に該債権の取立を為したことは争わないが其の余の事実は知らない。

三、同(三)の事実中、訴外竹内門治の労災保険料の滞納額は金六一、七〇〇円であつたことは認めるが、其の余の事実は否認する。労働者災害補償保険法(以下労災法という)第三一条第四項によつて準用せられている国税徴収法以下徴収法という第六三条によれば徴収職員は債権を差押えるときは徴収すべき滞納税額に拘らず原則として当該債権の全額を差し押えなければならないことになつているのであるから、被告が労災保険料の滞納額を超過して訴外竹内門治が第三債権者半田市に対して有する本件工事請負代金中当時弁済期が到来した分を全額差押したことは適法である。

四、同(四)の事実は争わないが、徴収法第五五条は所謂訓示規定に過ぎず、同法条に基く通知の欠は原告主張のように当該滞納処分の無効を来たすものではない。

五、同(五)の事実中、被告が原告主張のとおり差押債権全額の取立をなした上該取立金より先ず(イ)の労災保険料六一、七〇〇円の徴収に充当した。而して残金の内、の(ロ)訴外竹内忠治等に金二九八、二八八円を交付したのは滞納者竹内門治の要求に基いてなされたものであり、(ハ)の訴外知多地方事務所に金九四、七一二円を交付したのは、之を右竹内門治に交付する前に右知多地方事務所から差押を受けたので之を同事務所に交付したに過ぎず、以上はいずれも適法な処分である。

六、同(六)の事実は争う。

七、同(七)の事実は否認する。

なお、抗弁として、

八、訴外竹内門治は被告が本件債権について滞納処分を行つた当時、本件債権以外に多くの土地、建物などを所有しており又現在名古屋市内の名古屋測機株式社会に勤務し、月額金二〇、〇〇〇円の給与を得て居るのであるから原告は之等の財産について強制執行を行うことにより、充分右訴外人に対して有する債権の満足を得ることができるのである。よつて被告の滞納処分によつて直ちに損害を蒙つたとする原告の本訴請求は理由がない。

と陳述し、

立証(省略)

理由

第一、(争のない事実。)

(1)  原告は訴外竹内門治に対する金三八七、〇七九円の売掛代金等の債権の執行を保全するために同訴外人が訴外半田市に対して有する新居公民館新築工事請負代金債権金三、三六〇、〇〇〇円の内金三八七、〇七九円について当庁に債権仮差押の申請を為し昭和三七年三月一五日右申請の通りの仮差押決定がなされたこと並に該決定が翌一六日第三債務者たる半田市に送達せられたこと。

(2)  被告(愛知労働基準局以下単に被告という。)は本件仮差押債権に対し訴外竹内門治が労災保険料を滞納していることを理由に同年四月九日付で国税徴収法に基く滞納処分による差押をなした上、同月二〇日本件仮差押債権を含め、当時弁済期が到来した請負代金債権金四五四、七〇〇円全額を第三者債務者たる半田市から取立てたこと。

(3)  訴外竹内門治の労災保険料の滞納額は当時金六一、七〇〇円であつたこと。

(4)  当時被告は執行裁判所たる当庁に国税徴収法第五五条による滞納処分(差押)の通知をしなかつたこと。

(5)  被告は右滞納処分により取立てた金四五四、七〇〇円の内金六一、七〇〇円を訴外竹内門治の滞納労災保険料に充当し、残金の内金二九八、二八八円を訴外竹内忠治外一六名に交付し、更にその残金九四、七一二円を訴外愛知県知多地方事務所に交付したこと。

は当事者間に争がない。

第二、(本件仮差押事件の本案訴訟とその強制執行。)

成立に争のない甲第二、三号証の各一、二によれば

(1)  本件仮差押事件の本案訴訟たる原告より訴外竹内門治に対する当庁昭和三七年(ワ)第一五号売掛代金等請求事件において、同年六月一一日原告勝訴の判決言渡があり、該判決は同月二七日確定したこと。

(2)  原告は右判決の執行力ある正本を債務名義として当庁に本件仮差押債権につき債権差押命令を申請し同年八月二九日付で債権差押命令がなされ、該命令は第三債務者半田市に同月三〇日送達せられたこと。

を認めることができる。

等三 (債権仮差押と滞納処分の競合とその法的解決。)

(1)  本件のように裁判所の命令に基く債権仮差押が執行された後に国税徴収法に基く滞納処分による差押がなされた場合において債権仮差押の執行処分は如何なる影響を受けるのであろうか。この点は極めて困難なる問題である。証人(省略)の証言によると、滞納処分による差押がなされると債権仮差押は消滅したものとせられ、爾後全く之を無視して滞納処分が遂行せられるのが実務上の取扱であるようであるが、果してこの取扱は正当であろうか。

国税徴収法第一四〇条によれば、或る債権について既に差押がなされていても該債権に対し滞納処分による差押を妨げないことは勿論であるが、滞納処分がなされた場合、之により債権仮差押の執行が当然消滅するか否かは問題である。

滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律によれば仮差押がなされている「有体動産」又は「不動産」に対し滞納処分がなされた場合には滞納処分による売却代金について滞納者に交付すべき残余が生じたときは徴収職員等は之を執行機関に交付すべき旨を規定せられている。(同法第二八条、第六条第一項、第一七条)之によつて之を観れば一旦滞納処分がなされても当然には仮差押の執行が消滅するものではなく、唯仮差押がなされていても滞納処分の執行は何ら之に妨げられることなく、換価処分をなすことができること勿論であるが、若し滞納処分が解除されたり或は換価代金に残余が生じたときは之を直ちに滞納者に返還せず執行機関に交付すべきことを定められたのは明らかに滞納処分の執行により仮差押が消滅していないことを前提とするものと謂わなければならない。

尤も「債権」は現在のところ右法律の規定から除外されていることは事実であるが、だからといつて「債権」に限り、滞納処分により仮差押が消滅するものと解することはできない。なぜなら「債権」なるが故に「有体動産」又は「不動産」の場合と異る釈が許されると解すべき何等の根拠もないからである。

以上は滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律の規定を根拠とする立論であるが、当裁判所は右調整法の規定を俟つまでもなく、滞納処分により仮差押が当然に消滅するものではないと解するものである。右調整法により前記の解釈が創設せられたものではなく、調整法は之を前提として調整手続を規定したに過ぎないものと解せざるを得ない。

即ち徴収法第一四〇条は滞納処分は仮差押又は仮処分によりその執行を妨げられないとのみ規定し、仮差押の執行が消滅するとは規定していないし、両者はもともと法系統を異にするものであるから一方の執行のために必ずしも他方が消滅するものと解すべきものではない。

例えば一旦滞納処分がなされても、滞納者がその後滞納金を納付すれば滞納処分は当然解除せられるのであるから、この場合滞納処分と同時に直ちに既になされていた仮差押が消滅すると解すべきものとすれば之を復活するためには仮差押債権者は再び裁判所に仮差押の申請をしなければならないこととなり不当に仮差押債権者の地位を害することになるばかりでなく徴税機関による処分により司法機関の処分が徴税の必要を超えて不当な侵害を蒙ることになり、ここに重大な問題を提起することになろう。国税徴収法制定の目的から云つても徴税事務が仮差押に妨げられることなく優先的に執行されれば足るのであつて滞納処分の執行が終了すれば滞納処分と牴触する部分についてのみ仮差押は消滅するがその残余分については依然仮差押が存続するものと解することによつて右のような不当な結果は充分に回避せられるのである。徴収法第一四〇条は以上のように解釈するのが絶対に正しいと確信するものである。

第四、(全額差押の適否。)

被告は訴外竹内門治の滞納労災保険料金六一、七〇〇円の滞納処分として本件仮差押債権中弁済期の到来した金四五四、七〇〇円全額を差押えた。この点は適法か。

徴収法第六三条によれば徴収職員は債権を差押えるときは原則としてその全額を差押えるべき旨を命じているのであるから、この点は違法とは云えない。

尤も第三債務者は公共団体たる半田市であるから一応債権取立についての不安はないと解すべきであり従つて滞納額の限度で差押すれば足るとの解釈もできないことはない。併し徴収法の規定からみると全額差押を敢て違法視することは困難であろう。

第五、(全額取立の適否。)

被告は第三債務者半田市から右差押金額全額を取立てた。この点は適法か。

凡そ滞納金額を超えて債権全額の差押をした場合、該債権が所謂不可分債権である場合には、勿論之を全部取立てて更に之を換価処分する外はない。(徴収法第六七条第二項)併し本件のように金銭債権の場合には、金銭を取立てたときはその限度において滞納者から差押に係る税金を徴収したものと看做される(徴収法第六七条第三項)のであるから、取立の当時、該税金等に優先する債権が当該徴収職員に対し申告又は請求されている事実がない限り滞納金額を超過して該差押債権全額の取立てをなす必要はないものと解すべく之を強いて取立てることは権利の濫用として許されないものと謂わなければならない。

本件の場合本件弁論の全趣旨に徴し被告が本件債権の取立をした際に、被告の有する労災保険料債権に優先する債権の申告又は請求が被告の徴収職員になされていた事実がないこと明らかであるから被告が第三債務者半田市から訴外竹内門治の労災保険料の滞納金六一、七〇〇円を取立てると同時に滞納処分はその目的を達成し、残余については即時差押を解除すべきものと解すべきである。即ち被告が右滞納金を超えて差押債権を超えて全額の取立をしたことは権利の濫用であり違法と謂わなければならない。

而かも右滞納処分の目的たる債権については原告から仮差押がなされていたのであるから被告が之を無視して不当な取立をしたことは国家権力の不当行使として断じて許すべからざるものと謂わなければならない。

第六、(訴外竹内忠治外に対する支払の適否。)

(1)  被告が滞納金を超過して不当に取立てた金三九三、〇〇〇の内金二九八、二八八円を訴外竹内忠治外一六名に支払つている。

被告の弁解によれば滞納者竹内門治の依頼によつて之を支払つたと主張するが国家機関たる愛知労働基準局が何故かかる措置をとる権利又は義務があるのか全く理解し難い。被告は滞納金の残余は滞納者に交付すべきものであるから滞納者の依頼によつてかかる措置をとつたもので正当であるというが、当裁判所の見解によれば滞納金額を超えて本件債権を取立てたことは違法であり、滞納金額を超える部分については仮差押は未だ存続しているのであるから、右支払は仮差押債権者を害する違法の処分と謂わなければならない。

(2)  被告はその後更にその残余金九四、七一二円を愛知県知多地方事務所に交付している。

之亦(1)と同様に違法な処分である。尤も之は自動車税の滞納金の差押であり、若し被告より取立がなされていなくとも何れは差押をうける運命にあつたという弁解も考えられないこともないが、だからといつて右のような被告の措置が適法となるものではない。

第七、(滞納処分の通知の欠とその効果。)

(1)  被告が本件仮差押債権に対し滞納処分をなした直後である昭和三七年四月一三日付をもつて第三債務者半田市は被告に対し原告外一人から既に仮差押がなされている旨を通告したことは甲第五号証により明かであり、被告も明かに争わないところである。

然るに被告は執行裁判所たる当庁に対し徴収法第五五条による通知をしなかつたことは被告の認めるところである。之は被告の重大なる手続上の違法行為と謂わなければならない。

徴収法第四九条によれば徴収職員は、滞納者の財産を差押えるに当つては滞納処分の執行に支障がない限り、その財産につき第三者が有する権利を害さないように努めなければならないと規定している。本件の場合被告が違法に滞納税額を超えて仮産押債権全部を取立てたのであるから仮差押債権者たる原告は被告に対し異議の申立をするか或は被告を第三債務者として更に仮差押を申請する等法的救済手段を採る必要があつたのに、被告が右通知を怠つたために原告は之等の措置を講ずる機会を失つたものと謂わなければならない。之の点は被告の重大な責任問題であり、被告はこの通知の欠により生じた原告の損害を賠償する責に任ぜなければならない。

第八、(被告の仮定抗弁に対する判断。)

被告は訴外竹内門治は本件仮差押債権以外にも不動産を有し又会社員として給料債権を有するものであり、原告は之等の財産に対して強制執行をすれば充分その債権取立の目的を達することができるから被告の滞納処分により損害を蒙つたものとではないと抗争するからこの点について考究するに、不動産や給料債権に対する強制執行は当該財産に対する担保権の存在或は配当加入等各種の執行法上の支障が発生して執行の目的を達することが困難な事例が多いのに反し債権に対する強制執行は転付又は取立手続により比較的簡易にその目的を達することができる利点があるのみならず原告としては本件債権に対し仮差押を執行し、之により執行の保全を図らんとしていたのであるから、被告が之を侵害した以上之により原告に生じた損害を賠償する責任を免れることはできない。

第九、(原告の本訴請求額について。)

原告は、自ら認めるように本件仮差押債権については原告の外に昭和三七年四月二日訴外合資会社大嶽電気商会から債権額金一九八、五〇〇円の仮差押がなされている(乙第五号証参照)ので原告の仮差押金額三八七、〇七九円より被告の労災保険料債権金六一、七〇〇円を控除した残金三二五、三七九円を原告の債権額と右訴外合資会社大嶽電気商会の債権額とに按分するときは原告が右債権中弁済を受け得べき金額は金二一五、〇七五円となること計数上明らかである。

而して原告の訴外竹門治に対する金三八七、〇七九円の債権は当庁昭和三七年(ワ)第一五号売掛代金請求事件の判決確定により法律上確定したことは前段認定の通りである。

従つて本件弁論の全趣旨に徴し、原告は被告の違法なる本件仮差押債権の取立がなかつたならば、訴外竹内門治に対する右債務名義に基く右仮差押債権に対する強制執行により金二一五、〇七五円の限度においてその債権の回収を得ることができたものと認めるを相当とする。

第一〇、(本訴請求の法的根拠。)

本訴請求は本件弁論の全趣旨に徴し国の公務員である愛知労働基準局長が国税徴収法第六七条、第五五条、第一四〇条等の誤解或は手続の不知に基く重大なる職務執行上の過失により原告に損害を与えたことを原因とする請求であるから国家賠償法第一条により被告は原告に対し金二一五、〇七五円の損害を賠償する義務があるものと謂わなければならない。

第一一、(損害金の請求について)。

原告は本訴請求につき損害金として本件訴状送達の翌日たる昭和三七年一一月三〇日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の請求をしているが右損害金は本件訴状送達の翌日より支払ずみまで民法所定の年五分の割合により計算するを相当と思料する。

第一二、(結び)。

以上の理由によつて原告の本訴請求は以上認定の限度において相当として認容し、その余は失当として棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用し主文のように判決する。

名古屋地方裁判所半田支部

裁判官 織 田 尚 生

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例